産業:

Automotive

場所:

日本

サービス:

Applications

トヨタマップマスターが、次世代デジタル地図制作基盤「TOMOS」を完成させ、新たなビジネス領域の開拓を加速させている。TOMOSは、CASE(コネクティッド、自動化、シェアリング、電動化)時代を担う高精度3D地図データベースであり、多様な静的・動的データを格納する巨大なデータレイクであり、使う場所を選ばないクラウドベースの地図制作環境でもある。1998年の設立以来、カーナビゲーション向けデジタル地図で業界をリードしてきた同社が目指しているのは、自身の「MIPP(モビリティ情報基盤プロバイダー)」への変革だ。

 

「新しい時代に求められるデジタル地図制作基盤のコンセプトを『地図の倉庫』と定義しました。私たちはDXCテクノロジーをパートナーに指名して、『地図の倉庫』を具現化するTOMOSの開発に取り組んできました」

 

竹内 仁史 氏 株式会社トヨタマップマスター サービス開発部 部長

次世代デジタル地図制作基盤「TOMOS」の開発

トヨタマップマスターは、カーナビゲーションシステム、PC・スマートフォン向け地図、地理情報システム等に利用される高精度な地図データベースを構築・提供している業界リーダーの1社である。全国およそ53万箇所の交差点、建築物や施設、地形の変化を詳細に調査し、その変化をタイムリーに地図データベースに反映させながら地図情報サービスの品質・精度・鮮度を向上させている。同社のサービス開発部を率いる竹内仁史氏は次のように話す。

「私たちが提供する地図データベースへの期待は、安全運転支援や自動運転、革新的なMaaS(モビリティサービス)を実現するための情報基盤へと大きくシフトしつつあります。変化し続けるニーズに応え、新しいお客様価値を創造していくために、私たち自身も、カーナビ地図の製造業から『MIPP(モビリティ情報基盤プロバイダー)』への変革にスピード感をもって取り組んでいます」

トヨタマップマスターでは、ナビゲーションシステム向けに特化したデジタル地図制作基盤「CREO」を2014年から運用している。CREOは、各種データの取込・保管・加工システム、地図データの参照・編集システム、検査システム、納品システムのサブセットからなる統合システムであり、DXCテクノロジー・ジャパン(当時は日本ヒューレット・パッカード)が構築を支援した。サービス開発部 システム開発室 室長の岡田香氏は次のように話す。

「機能ごとに個別に構築されてきた複数のシステムを、フレームワークを活用してデジタル地図制作基盤として統合しました。CREO は、私たちのビジネスの中核であるナビゲーション地図を世に送り出しながら現在も機能強化を続けています。さらに、このCREOで培ったノウハウをベースに、まったく新しい発想で次世代デジタル地図制作基盤『TOMOS』の開発に着手したのは2015年のことです」

CREOからTOMOS への進化はまさに飛躍的なものだった。たとえば、ルート案内を主眼とするカーナビ地図が2Dであるのに対し、自動運転の車両制御に利用されるのは高精度の3D 計測データである。これだけで扱うデータ量は数十倍になるという。さらに、天候や路面の状態など刻々と変化する動的な情報も取り込まなければならない。

「私たちは、新しい時代に求められるデジタル地図制作基盤のコンセプトを『地図の倉庫』と定義しました。ニュートラルな地図データを中心に、いつでも・どこでも・簡単に地図データを扱える環境を整備し、様々な情報と連携した魅力ある地図コンテンツやモビリティサービスを創造していくことが大きな目標です。私たちはDXCテクノロジーをパートナーに指名して、『地図の倉庫』を具現化するTOMOSの開発に取り組んできました」(竹内氏)

TOMOS= 地図の倉庫 のコンセプト

 

新しい時代の「地図の倉庫」をいかに実現するか

DXCテクノロジーは、世界70か国に拠点を持つ世界最大級のITサービスカンパニーであり、その強みはテクノロジー人材とナレッジに代表される豊富なグローバルリソースにある。本プロジェクトには、DXCテクノロジー・ジャパンを軸に、高いスキルを備えたオフショアチームがアサインされた。DXC は、ワークショップを通じたコンセプトの検討、システムアーキテクチャーとデータ処理ロジックの設計、テクノロジー選定を起点にプロジェクト全体を一貫してサポートした。

TOMOS の開発方針について岡田香氏は次のように説明する。

「いつでも・どこでも・簡単に使える『地図の倉庫』というコンセプトを具現化するために、発想を大きく転換してシステムアーキテクチャーの設計を進めました。機能的には、あらゆるデータを『集める・つなげる・組合せる・提供する』ことに注力し、様々な外部システムとの連携を重視しています。テクノロジーとアプローチいずれの面から見ても、5年先10年先を見据えたチャレンジでした」

プロジェクトは、TOMOS のサービス基盤にアマゾン ウェブ サービス(AWS) を選定。AWS の機能モジュールとマネージドサービスを利用することで効率的な構築・運用を目指した。Webブラウザーさえあれば地図データの参照・編集が可能なモダンなWebアプリケーションとして、TOMOSの利用が始まったのは2017年である。アーキテクトとしてプロジェクトに参画したDXCの石垣伸哉氏は次のように話す。

「TOMOSのコア部分はコンテナ化されたマイクロサービスで構成されており、機能の変更や拡張に柔軟に対応できる設計としました。インフラ側は、大規模なデータを扱うための複数サーバーによる分散処理を工夫しスケールアウトも容易です。また、コンテナはAmazon Elastic Container Service(Amazon ECS)によって統合的に管理されており、CI/CDパイプラインによるビルド/テストの自動化とデプロイの高速化と合わせて、優れた柔軟性と俊敏性を備えたシステムとして完成させました」

TOMOSは「地図の倉庫」として大規模な地図データおよび関連データを格納するが、特徴的なのが「ポイントクラウド(点群)データ」と呼ばれる3次元座標(x, y, z)データである。

3Dレーザースキャナーによる計測で取得されるポイントクラウドデータの例。データは座標値(X,Y,Z)と色情報(R,G,B)により構成される。

「リレーショナルデータベースのスキーマという呪縛から抜け出し、ポイントクラウドデータとメタデータを効率よく管理するために、ドキュメントデータベースMongoDBを選定しました。地理空間インデックスを扱うことができ、位置情報を利用したクエリを高速に実行可能なことが採用の決め手です」(石垣氏)

TOMOSは、データ制作や業務システム開発などに携わる複数の部門が利用する。格納された地図データやポイントクラウドデータ、走行ルートデータなどから目的に応じたものを自由に選択し、車線、道路標識、区画線などの属性情報を加えて顧客ニーズに応じた様々な専用データを開発できる。こうしてコンセプトである「地図の倉庫」が具現化された。

TOMOS構成図

 

オフショアチームを含む多拠点でのアジャイル開発

TOMOSの開発は、トヨタマップマスターとDXCを中心とする日本チーム、これに中国・大連のDXCのオフショアチームを加えた3極体制で進められた。トヨタマップマスターの中核システムである「CREO」の開発で経験を積んだメンバーを中心に、TOMOSプロジェクトチームが編成されたのである。TOMOS開発における新たなチャレンジは、OSSをはじめとする最新テクノロジーの積極的な採用と、グローバル多拠点でのアジャイル開発だった。

「TOMOSでは、ScalaやTypeScript、Node.jsといった言語を採用し、ミドルウェア群もOSSをフルに活用しています。手堅い技術によるウォーターフォール型の開発から、進化の早いOSSを活用したアジャイル開発への転換は、チーム全体の高いモチベーションと技術力によって期待以上の成果をあげることができました」と岡田香氏は話す。

最も多くの技術者を投入したのは、大連のDXCオフショアチームのDDC(DXC Global Delivery Chinaに置かれたJapan Dedicated Delivery Center)である。DXCテクノロジーのソフトウェア開発拠点であるDDCは、2004年にヒューレット・パッカード社(当時)が設立した「Japan Dedicated Delivery Center」を前身に持つ。DXCでプロジェクトマネージャーを務めた岡田頼樹氏は次のように振り返る。

「国境を越えた技術者がチームを編成し、オンラインで緊密にコミュニケーションしながらアジャイル開発に取り組みました。今でこそオンライン会議は当たり前になりましたが、2015年時点でグローバル多拠点でのアジャイル開発体制の確立は先進的な取り組みでした」

TOMOSプロジェクトの立ち上げ時には、地図モデル、生産モデル、開発モデルをそれぞれ担当する3チームが編成された。チームはフェーズごとに役割を変えながら、プロジェクトの進展とともに新しい技術を自分たちのものにしていった。

 

「社内技術者の育成、ナレッジの蓄積と展開という視点でも大きな収穫が得られたと思います。DXCの技術者とプロジェクトに取り組んだ経験は何物にも代えがたい財産になりました」

 

岡田 香 氏 株式会社トヨタマップマスター サービス開発部 システム開発室 室長

ベネフィット

TOMOSのコンセプト「地図の倉庫」を具現化し、機能セット「集める・つなげる・組合せる・ 提供する」を実装
多様な変化に適応できる次世代デジタル地図制作基盤の実現
「TOMOS」のコア技術を活用した顧客向けシステムビジネスの立ち上げ
クラウド関連テクノロジーに精通した先鋭的な技術者の育成に寄与

地図情報による新しい価値創造に向けたチャレンジは続く

「地図の倉庫」としてAWS上に構築されたTOMOSは、顧客ニーズに応える形でハイブリッドクラウド構成へと進化を遂げている。TOMOSを活用した顧客向け業務アプリケーション開発、地図情報サービスなどの外販ビジネスも順調に推移しているという。

「TOMOSプロジェクトに携わってきた若手技術者が、現在は様々な部門で先進技術の活用やアジャイル開発の実践をリードしています。社内技術者の育成、ナレッジの蓄積と展開という視点でも大きな収穫が得られたと思います。第一線で活躍するDXC、DDCの技術者とともにプロジェクトに取り組んだ経験は何物にも代えがたい財産になりました」と岡田香氏は笑顔を見せる。

トヨタマップマスター、DXC、DDCの3社がワンチームとして目標に突き進んだTOMOSプロジェクトは現在進行形だ。新しいビジネス要求に応え続けるために「地図の倉庫」の進化も続く。竹内氏は次のように話して締めくくった。

「TOMOSはDXCテクノロジーの力強い支援を得て、多様なニーズやビジネス要求にも応えることのできるプラットフォームとして、理想に近い形で完成されました。必要な機能改修やアプリケーション開発を迅速に行う人材も体制も万全に整えられています。地図情報を軸にした新しい価値創造へのチャレンジに終わりはありません。DXCには、言いたいことを言い合えるパートナーとして、これからも私たちのビジネスを支えてもらえることを期待します」

 

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